O157(腸管出血性病原性大腸菌性腸炎)のやさしい細菌学


<1>O-157に関するQ&A(基礎編)

A:O-157は食中毒をおこす「悪い大腸菌」です。

このように病気をおこす大腸菌を私たちは「病原性大腸菌」 と呼んで「ふつうの大腸菌」と区別しています。

「ふつうの大腸菌」は健康な人や動物の大腸に住んでいますが、 特に病気をおこすことはありません。

A:O-157と「ふつうの大腸菌」は大きさや形では区別できません。

どちらも1、000分の1ミリメートルぐらいで、眼には見えません。

顕微鏡でのぞくと、ウィンナーソーセージのような棒状の形をしています。 これを私たちは「桿菌(かんきん)」と呼んでいます。

●地球上の病原菌は全部で3つの形に分けられます。

1.ウィンナーソーセージのような形の「桿菌(かんきん)」

2.テニスボールのような形の「球菌(きゅうきん)」

3.コイルのような形の「らせん菌(らせんきん)」です。

細菌の恐い点は眼に見えないことです。

A:O-157も「ふつうの大腸菌」も1個が2個に、2個が4個にというように、 ネズミ算式に増えていきます。このような増え方を私たちは「二分裂」で増殖するといいます。

●大腸菌は栄養が十分ある適度な環境では増殖が早く、約20分で1個が2個に増えます。 これから計算すると、1個の大腸菌が一晩(10時間)で約10億個に増えます。 さらに2時間たつと、何と地球上の人口の10倍の約640億個になってしまいます。

細菌の恐い点はこの旺盛な増殖力です。

A:大腸菌にはいろんな特徴を持ったものが数多くいます。

私たちはこれを整理するために、細菌が持つ「O-抗原(オウこうげん)」という 独特な性質に注目して、その違いで一つ一つを分類しています。

O-157は157番目に発見された大腸菌に付けたいわば背番号みたいなものです。

A:1982年にアメリカでハンバーガーが原因となった食中毒で発見された菌です。 研究の結果、新しい菌であったので1983年に背番号が付けられました。

●正式にはO157:H7といいます。

A:日本では1990年に埼玉県浦和で幼稚園児2名が死亡した集団食中毒事件がきっかけでO-157の名前が広く知られるようになりましたが、すでに1985年には日本にもこの菌がいることが

知られていました。

A:O-157は食中毒をおこし、抵抗力の弱い人を死亡させることがあるからです。

A:O-157の毒素はサルの腎臓由来の「ベロ細胞」という細胞を殺すので、ベロ毒素という名前が付けられました。 この毒素はベロ細胞だけでなく多くの細胞や臓器に傷害を与えます。

●ベロ細胞は1962年千葉大学医学部微生物学教室の安村美博博士がアフリカミドリザルの腎臓から取り出し試験管の中で生き続けさせることに成功した培養細胞です。これにエスペラント語で「真理」という意味のベロという名前が付けられ、今では世界中の研究室で医学の研究に使われている便利な細胞です。

A:O-157のベロ毒素は2種類あります。

ベロ毒素が細胞に付着すると、細胞は生命維持に必要なタンパク質を作れなくなり、結局死んでしまいます。

●「ベロ毒素1」は1984年に野田公俊らによって初めてその性状が詳しく研究されました。 その結果、驚くことに赤痢菌の出す志賀毒素とまったく同じものであることが判りました。

●「ベロ毒素2」はその志賀毒素と同一ではないが大変良く似たものです。どちらも細胞に傷害を与えます。

A:いくつかの仮説があります。そのうちの最も有力なのは、「ふつうの大腸菌」に赤痢菌から ベロ毒素をつくる遺伝子が移った、というものです。

●細菌の世界では遺伝子の移動は日常よくあることです。「ふつうの大腸菌」にコレラ菌から コレラ毒素をつくる遺伝子が移って誕生した「病原性大腸菌」もあります。

A:病気の症状から5つのグループに分けられています。

1.腸管病原性大腸菌(ちょうかんびょうげん性大腸菌)

「EPEC」というニックネームがついています。

●これは1940年代にイギリスの乳児院でおこった集団下痢で初めて見つかり、人に病気を おこす「悪い大腸菌」つまり「病原性大腸菌」がいることがわかった最初の例です。

●乳幼児にサルモネラ胃腸炎とよく似た症状をおこします。

2.腸管侵入性大腸菌(ちょうかんしんにゅう性大腸菌)

「EIEC」というニックネームがついています。

●日本で1969年に国立予防衛生研究所の坂崎利一博士によって発見されたものです。

●赤痢菌と同じく細胞の中に入り込む「細胞侵入性」をもった大腸菌で赤痢によく似た症状をおこします。

●ただし、この菌はベロ毒素を出しません。

3.腸管毒素原性大腸菌(ちょうかんどくそげん性大腸菌)

「ETEC」というニックネームがついています。

●熱帯地方を旅行中の人や帰国した人がこの菌でコレラとよく似た下痢症状になることがあります。

●この菌はコレラ菌が出すコレラ毒素とほとんど同じ毒素を出します。子どもから大人まで 幅広く症状が出ます。

4.腸管出血性大腸菌(ちょうかんしゅっけつ性大腸菌)

「EHEC」というニックネームがついています。

●O-157はこの代表的なメンバーです。赤痢菌が出すベロ毒素と同じものを出し、出血性大腸炎といわれる鮮血便と激しい腹痛をおこします。さらに体力の弱い子どもや老人に腎

臓や脳に重い障害をおこし死亡させることもあります。

●この症状は赤痢菌のおこす「疫痢」とよく似ています。

●この菌の感染力や毒力は、ほぼ赤痢菌なみです。

5.腸管付着性大腸菌(ちょうかんふちゃく性大腸菌)

「EAEC」というニックネームがついています。

●ある種の細胞に付着し、遅延性の下痢をおこします。

詳しい性状はまだあまりわかっていません。

A:O-26もO-157と同じく大腸菌に付いた背番号です。

O-157はベロ毒素を出すので恐いと前に述べましたが、ベロ毒素を出す腸管出血性大腸菌はO-157 のほかに、以下のものがあります。

O-26、O-103、O-111、O-128、O-145

そこで、これらにも注意する必要がありますが、O-157によるものが圧倒的に多く60〜80%を占めます。

●最近これらの「ベロ毒素(VT)を出す大腸菌」「VTEC」という特別なニックネームで呼ぶことがありますが、 「EHEC」と同じ菌です。

A:O-157は毒素を出すだけではなく、人に対して圧倒的に強い感染力を持った細菌です。 この強い感染力が危険なのです。

●食中毒をおこす細菌は、一般的に感染力が弱く10万〜100万個という信じられないほど多くの細菌を食べないと病気になりませんが、O-157は100個ほどで病気をおこすといわれてい

ます。この強い感染力は大腸菌というより、赤痢菌に似ています。

A:「2次感染予防が目的」です。

●O-157は赤痢菌と同じ毒素を出し、感染力も赤痢菌に近く、死亡者を何人も出すなど全国的に猛威をふるっているので、 2次感染を防ぐためにも、ふつうの食中毒をおこす細菌と区

別する必要がでてきたからです。 赤痢やコレラは前から伝染病に指定されています。

●つまり普通の食中毒をおこす細菌にくらべて、O-157は強い感染力を持っているために 赤痢やコレラなどの伝染病のグループに入れることにしたのです。

<2>O-157に関するQ&A(その症状と対処)

A:O-157で汚染した食品をどれぐらい食べるかにもよりますが、症状が出るまでの時間は (これを潜伏期といいます)1〜10日です。この潜伏期の長いことが原因食の追求を難しくし

ています。

A:O-157に感染すると一定の潜伏期の後に、下痢、吐き気、嘔吐、腹痛などの ふつうの食中毒と同じような症状が最初におこる例が多いです。

数は少ないのですが、10%ぐらいは悪寒、発熱、喉の痛みなど、風邪と似た症状で始まる例もあります。

●やがてこれに引き続いて典型的な例では、便に血がまじる血便になり、さらに進むと鮮血便という下痢というよりは出血そのものの症状になります。

●この鮮血便という症状がおさまっても安心できない場合があります。それはベロ毒素が 腎臓や脳に傷害を与え、溶血性尿毒症症候群(HUS)、血栓性血小板減少性紫斑病

(TTP)、 さらにケイレンや意識障害などの脳症をおこし死亡させる場合もあるからです。

●体力の弱い子どもや老人では、重い症状になることがあるので特に注意しなければ なりません。

A:食中毒症状を感じたら、できるだけ急いでお医者さんに相談してください。 疑わしい食品がわかれば検査のために持参したら良いです。また、吐物や便を乾燥しないようにして 持参

すると原因を突き止めるためにとても良い参考になります。

A:素人判断で下痢止めなどを飲んではいけません。無理に下痢を止めると 腸内に原因菌を閉じこめることになり、異常な増殖をまねき症状を悪化させることがあるからです。

A:抗生物質を飲む際はタイミングが大切です。これは必ずお医者さんの 指示に従ってください。


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