前立腺がん周辺


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前立腺がん目次
ある友の死

前立腺がんは、がんの中でも進行が遅く、穏やかだとも言われている。しかもホルモン療法という伝家の宝刀もあることだし、平均余命との戦いだとか随分のんびりしたことがよく言われる(ガンモドキ理論)。しかし、がんそのものによる症状が出てからでは、他のがんと変わりないようにも思われる。いつからがんになったのかその発祥は難しい。たとえ胃がんであっても、一個のがん細胞が出来てから臨床的に自覚症状が出てくるまでには随分と時間もかかっていることだろう。十年あるいはもっと時間を要したかもしれない。全ての始まりが体内に芽生えた一個のがん細胞なのだ。こういうことは全てのがんについて共通したことである。でも前立腺がんは、あまり進まないうちに偶然に見つかることが多い。中高年者によく見られる前立腺肥大症(年寄りに良く見られる?)も例外ではない。幸いにも血液(PSA)で判定可能ながんは他にはないであろう。幸せというか、不幸というべきか、悩むところである。自覚症状がなく、たまたま血液で前立腺がんとわかった人は幸いにも十年戦争だ。あるいはそれ以上かもしれない。息の長いがんとの付き合い、穏やかに冷静に対処して行こう。まづは前立腺がんについて知ろう。

前立腺のかかわる病気はがんに限らす男性ホルモン(アンドロゲン)が関係しているようだ。去勢(睾丸を取ってしまう)すればよさそうなものだが、なにもアンドロゲンは睾丸のみから産生されるものではなく副腎からも生成されるようだ。全アンドロゲンの5%位は副腎産だといわれている。だからたとえ去勢してもアンドロゲンレベルは 0 にはならない。確かに最近のホルモン治療によっては血中テストステロンが去勢レベルまで低下するようだ。高単位の Gn-RH の投与でフリーのテストステロンつまり活性型デヒドロアンドロステンのレベルがほぼ 0 まで減少するという。PSA もがん抗原ではなく単なる前立腺に対する特異抗原なので、確かに低レベルまで下がるが 0 にはなり難いようだ。あまり ng という mg の百万分の一というレベルで一喜一憂するのは考えものではないだろうか。


1 概説

   1) 分類 前立腺の腫瘍性疾患には
良性腫瘍(前立腺肥大症)と悪性腫瘍(前立腺癌)とがある。

前立腺の腫瘍の症状は良性悪性にかかわらず尿道の圧迫症状を示す。前立腺は膀胱から尿道とつづくところにありくるみ大の大きさで、尿道をぐるりと取り囲んである。この前立腺が肥大(大きくなる)するので、尿道(ゴム管のようなもの)が圧迫され、管の内径が狭くなり、尿意切迫、残尿、尿線が細くなる、夜間尿意(頻尿)等が起こってくる。つまり良性も悪性も同様の症状を示すことが多い。しかも悪性の前立腺癌の初期は、ほとんど症状を示さない(外腺から発生する)のが普通である。症状のないときに見つけるのは血液検査(血中PSA)のみである。中高年期の成人検診(がん検診)には必ず血清PSAを加えるべきだ。


   2) 疫学

        (1) 日本人よりアメリカ人の方が断然多いが、今後日本でも直線的に増加傾向にある。

            欧米の男性と日本では前立腺癌による死亡率に大きな隔たりがあり、その原因として高蛋白、動物性の高脂肪の食生活を含めた欧米風の生活様式が指摘されている。アメリカでも白人に比べて黒人のほうが10倍ぐらい多いという。逆にいえば、すべてが欧米風の生活様式に移行しつつある日本の現在を考えると、近い将来に前立腺癌による死亡率も欧米レベルになると考えて不思議ではない。

もともと、前立腺がんは欧米では発生率が高く、全がんの上位にあるが、日本では低いといわれてきた前立腺がんが最近増えている。毎年1万3000人が発症し、死亡者は年7000人と、10年前の2倍になった。しかも近年、直線的に上昇しており、2015年には日本においても、その発生率(現在の4倍に達する)、死亡率共に第1位になると予測されている。

                                                         
        (2) 頻度は年令と相関(おもに60才以上、70才以上が80%)する。1990年に日本で50歳以上の男性は約1700万人いたが、その内約20%の340万人が前立腺癌を持っている筈(剖検統計より)であり、さらにその20%である68万人が治療を必要とする癌も持つ可能性がある。

   3) 発生 前立腺がんは前立腺の外腺より発生する(内腺からは前立腺肥大症)。しかし、まれに内腺部より発生するがん(肉腫)もあるので注意が必要だ。この場合、通常の生検(バイオプシー)ではひっからないようだ。男性ホルモン(アンドロゲン)との関係も云々されている。アンドロゲン(テストステロン)の中でもこの場合活性型のデヒドロアンドロステンディオンが問題となるだろう。    

   4) 病理学

        (1) 組織学的悪性度:異型度(grade)分化度(differentiation)
        (2) 拡がり:病期、stageTNM(Gleason係数)

   予後の判断(Gleassonの指数が重要)には悪性度と病期が重要で、ごく初期の前立腺癌は進行が遅く、当該年齢等条件によっては、処置を加えずそのまま経過観察することがある。でも癌であることにはかわりなく骨転移を起こしやすく、厳重な観察が必要なことには変わりない。たとえ進行癌でもホルモン療法など著効を呈することがあるようだ。

前立腺がんの多くは、男性ホルモン(アンドロゲン)に依存して増殖する特徴をもったがんで、初期は自覚症状がなく(外線から発生するので)、リンパ節や骨に転移しやすい特徴があるため、これらによる症状で見つかることが少なくない。生存率は病期と悪性度すなわち分化度によって違うが、難点は一個体に発生するがんの組織に多様性があり、分化度の高いものから低いものまでが混在(グリソン指数)していて明確な悪性度が判定できないことにある。また、一般には進行の遅いがんとされているが、病期の進んだ例の5年生存率は20パーセント程度で決して好ましいものではない。

2 症状

 がんの初期症状(自覚症状)は全くなにもないのが普通(どんながんにも共通)である。下記の症状があるときはかなり進行(浸潤)したがんと考えると良い。前立腺がんは外線より発生することが多いので特に初期は症状を伴わないことが多い。腫瘤が大きくなれば前立腺肥大症と同じ尿道の圧迫症状を見せる。前立腺がんで夜間頻尿、尿線縮小、残尿増加、尿線途絶等の症状が出てきたら浸潤が認められ、かなり進行したがんかも知れない。

     1) 尿路の症状 排尿困難、血尿、会陰部不快感
     2) 上部尿路通過障害による症状 水腎症、尿毒症
     3) 転移(骨に転移しやすい)による症状 骨疼痛、神経症状(麻痺)
     4) 検診による超音波、触診(人間ドック)
     5) 前立腺肥大症の手術標本から偶然に見つかる偶発癌 incidental cartinoma

3 前立腺癌の早期発見

 アメリカでの国をあげての取り組みが効を奏し、この10年間に前立腺癌の早期発見に向けての診断技術は飛躍的に向上した。その最たる理由は前立腺腫瘍マーカー( PAまたはPSA )の普及である。従来は排尿症状を訴えて泌尿器科外来を受診する患者に、専門医が肛門からの触診でしか前立腺の早期癌を見つけることができなかった。最近では読影や触診などの特殊技術を用いなくとも1ccの血清があれば診断できる。これを血清腫瘍マーカーと呼び、人間ドックや集団検診でたくさんの早期癌が見つかるようになった(一般的にはまだまだ普及していない)。

4 検査

     1) 直腸診(大きさ、硬さ、辺縁や表面の状態)
     2) マーカー  前立腺特異抗原(PSA等)
     3) 画像診断 超音波診断(US)、MRI、骨シンチグラム(アイソトープを使用して骨転移の有無を調べる)
       いまでは世界中に普及している超音波診断(US)が日本人考案とは知らなかった。
     4) 内視鏡(最近では内視鏡を使って前立腺全摘出術を行うことも出来るようだ)
     5) 生検 針生検、穿刺細胞診

    * 最も手軽でいい組み合わせは直腸診、マーカー、超音波検査(侵襲が少ない)のコンビによる診察。しかし最終診断は生検(バイオプシー)である。

5 鑑別診断

     1) 前立腺肥大症
     2) 前立腺炎(発熱、年令、触診時圧痛)
     3) 前立腺結石(単純Xp)

   * 直腸診、マーカー、超音波検査で90%以上鑑別可能。でも最終的には生検(針を前立腺に刺して組織を採取する)である。

6 治療

     1) 手術療法 拡大前立腺全摘除術 Extensive radical prostatectomy 。

        前立腺は言うに及ばず、あたりのリンパ腺・節とか綺麗さっぱり取り去ってしまう。付近には複雑な神経分布が見られるが綺麗さっぱりやってしまうに越したことない。勃起神経がどうのとか言っている余裕はないはずだ。命あってのものだねではないだろうか。先生(医師)も人の子、複雑極まりない手術を無難にやってもらわなければならない。いろいろ注文つけるよりも、全て任したらまな板の鯉、ご自由にやってもらうしかない。
    (被膜下前立腺摘除術や全摘出術は前立腺肥大症等の良性腫瘍の手術法)

 癌の局所療法としては外科的手術による病巣・所属リンパ腺・節の完全摘出に勝るものはない。前立腺癌も例外ではなく、内線と外線を含めた前立腺組織、前立腺尿道部および精嚢腺に骨盤内リンパ節郭清を加えた全摘出術よる病巣の完全除去が最も確実に根治性の得られる治療法である。従来の前立腺全摘出術は手術手技の難しさによる出血の多さに加え、術後の合併症としての尿失禁や性機能障害など患者の手術後の生活を考えるとその選択には消極的にならざるを得ない背景があった。また日本では、手術の対象になる局在癌の頻度が少なく、医者が手術手技を習熟するにも場がなかった。しかし、1980年台に入って状況は一転した。1979年Walshらのグループは前立腺とその周囲骨盤腔内臓器の詳細な解剖学的検索から、血管系の手術処理を工夫することにより術中出血を劇的に軽減した。勃起神経の温存により性機能の維持を可能にする方法も発表した。また、尿道活約筋近傍のこれらの神経、血管走行の熟知は術後尿失禁の防止にも役立ち、前立腺癌の根治的手術をめぐるQOL の問題を解決することになった。ほぼ時期を同じくしてStaymeyらのグループは前立腺の内部構造に関する解剖学的解析と前立腺癌の手術摘出標本から得られた微小癌巣との詳細な照合により、癌の好発部位や進展形式に関する多くの成果を報告した。これらの一連の仕事は超音波検査を主とする画像診断法や腫瘍マーカーとの関連性にまで言及し、前立腺癌の生物学的解析に基づく詳細な診断基準を確立した。さらに彼らは微小癌巣の組織型、容積および治療予後にまで言及し、前立腺全摘出術の適応を明らかにしている。

以上のアメリカの二つのグループによる業績は解剖学者、病理学者らの基礎グループおよび泌尿器科医、放射線医らの臨床グループをそれぞれまとめあげて為しえた見事なプロジェクトである。

     2) 内分泌療法(抗男性ホルモン療法)

       去勢術、エストロゲン、アンチアンドロゲンLHRH analog

   * 最近流行のホルモン療法も確立された治療法とは言いがたいようだ。なるほどPSAを指標とすれば改善される場合が多数見られるが、これによって完治とはいいがたい。休薬すればまたぞろPSA値の変化が見られるようだ。まだまだ、症例を積み重ね疫学的にも検討を加えなければ確立された治療法とは言いがたいようだ。

     3) 放射線療法(外照射、内照射、強度変調放射線治療

       体外から放射線で焼く方法、あるいは直接ラジウム針を打ち込む内照射などがあるが放射線宿酔などの問題も大きい。最近では重粒子線を使用した治療も試みられている。

     4) 遺伝子療法

7.予後

    予後の判断には細胞の悪性度と拡がりが重要で現在では Gleason係数が用いられている。今や前立腺全摘出術全盛の感があるが、ここで忘れてはならないのが前立腺癌の自然死である。従来、前立腺癌は年令とともに増加する癌で、他の臓器の癌に比べて成長速度が遅く、剖検(死体解剖)で発見される率が高い。早期癌に対する早期治療が必ずしも延命効果を得るとは限らず、すぐに手を付けなければいけない癌なのか、watch and follow up の可否をめぐってアメリカとヨーロッパで大掛かりな臨床トライアルが進行中であるそうだ。転移がなけれが平均余命との戦いで、90%は完全に治癒する。

わが国の初めてのノーベル物理学賞の中間子理論の湯川秀樹博士もこの病によって亡くなられた。いづれにしても、前立腺癌の最近の進歩は早期診断技術の飛躍的進歩と、解剖学的アプローチの見直しによる手術手技の改良で、前立腺全摘手術は術後合併症の少ない安全な手術としての地位を築いた。一方、内分泌療法に関しては除睾術に変わる薬剤の開発が続くものの今一歩のbreake through がない。しかし、癌のホルモン依存性に関しては分子生物学を駆使した基礎研究による成果が着実に得られており、臨床的成果が得られる日もそう遠くないと思われるようだ。期待したい。

前立腺がんについてザアーと見てきたが、一にも二にも、自覚的症状の出る前に病気を見つけたい。そのためにはPSA測定を取り入れた集団検診のシステムが確立されることを願ってやまない。自分のような同じばか者が2度と出ないために。



参考文献  前立腺癌取扱い規約 2001年4月(第3版)  日本泌尿器学会 日本病理学会/編               


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