不登校の問題
不登校とは,本人は「登校したい」「登校しなければならない」と考えているが,いざ登校しようとすると過緊張状態が出現して登校できない状態をいう.文部省の調査では年間50日以上欠席した不登校の小・中学生は53,000人以上にのぼっており,“ごく普通の子どもでも起こりうる”との見解が出されている.また,登校を絶対視する考えを転換して,学校以外の民間指導・相談施設への通所も出席扱いにできる方針を打ち出している.
不登校とは疾患の診断名ではなく“状態像”である.不登校は幅広い子どもにみられることに留意し,不登校児というレッテル貼りを避けるための配慮が肝要である.
不登校に伴う身体症状
不登校の初期には身体症状が伴いやすく,腹痛,下痢,頭痛,発熱,全身倦怠,嘔吐などがよくみられる.朝方に症状を訴えるが昼頃からは元気になり,食欲や全身状態も良好であることが多い.こうした身体症状は登校への過緊張が機能的障害を招くためであるが,時には起立性調節障害,過敏性腸症候群,神経性胃炎,潰瘍などの器質的障害を伴う.いずれの場合にも小児科医の対応がその後の経過に影響を及ぼしやすいので,身体症状のみでなく心理的要因にも目を向けて本人の訴えをよく聞き,その苦痛を受容的に理解して治療や対応を進める.
治療・対応の進め方
1.状況の聴取
身体状況,日常生活,家族関係,友人や学校生活などの状況を聴取する.登校に関連しては主として以下の点について家族から聴取し,不登校に至るまでの要因や状況を把握するとともに,適切な対応が行われているかを検討する.
(1) 不登校が始まった頃の状況はどうであったか.環境の変化や誘因となる出来事はなかったか(学校や家庭でのトラブル,学業不適応などが不登校の要因になっていないか).
(2) 不登校が生じてから本人はどう変化したか(葛藤や無気力が強まってはいないか).
(3) 家族・学校は不登校にどう対応し変化してきたか(適切な対応・対処が進んでいるか).
(4) 家族・学校は本人のどのような変化を最も期待しているのか(登校か,安定か).
(5) 学校などのサポートはどうか(家庭と学校との協力体制ができているか).
本人とは主として以下の点について可能な範囲で話合い,本人の葛藤状態を解決するための適切な対応方法を探る.同時に,本人の発達的状況をも理解する.返答を焦らずに,時には日数をかけて聴取する.
(1) 現在望むことは何か(自分自身,学校,家族にどんな変化を期待しているか).
(2) 欠席に伴う不安や悩みはないか(学業,友人関係,日常生活での困難や不安は何か).
(3) 今後の方針や希望は何か(進学,進路,考え方など).
家族や本人の話から,不登校につながる要因を検討し何を窓口として本人や家族を援助していくべきかを考えるが,多くは複合的な要因が関与している.
2.治療・対応体制の決定
治療・対応が必要な場合,その体制を決定するために以下の点を明確にする.
(1) 本人の身体・精神・発達状態に適した到達目標は何で,その実施が可能か.
(2) 今後誰が受診できるか(本人との面接が可能か,家族だけの指導か).
(3) 専門的な心理治療を要する場合,それを何処で行うか(カウンセリングが可能か,治療体制は整っているか,治療スタッフはどうか,他科あるいは他機関への紹介が必要か).
3.対応の実施
本人への対応としては,以下のような方法がある.
(1) 登校を目標として,具体的な登校計画を進める(学校へ距離的に徐々に接近する,登校しやすい曜日・時間を選んで登校してみる,学校行事や課外活動などに参加してみる,学校の問題点を改善する,教師・友人の協力を得る,転校する,など).
(2) 登校刺激を控えて家庭生活の充実をはかる(生活リズムの確立,手伝いなどをして意欲を出す,趣味やスポーツなど打込める目標をもつ,家庭学習を進める,家族関係を改善する,など).
(3) 指導・相談施設のデイケアや習い事などの小集団に参加する.
(4) 指示や干渉を行わず,本人の意志を尊重して見守る.
(5) 身体的あるいは心理的障害が顕著であり,その治療を優先する.
いずれにしても,再登校だけが目標ではなく,本人の成長を支える前向きなステップとしての対応を行う.強引すぎる方法はマイナスになることが多い.
4.家族への援助
家族の不安を理解し,その努力を尊重する.治療者の独断や思い込みで家族を評価せず,共に問題解決をはかるという姿勢が大切である.子どもの本質に目を向ける考え方が基本であることを理解してもらう.家族へのアドバイスとしては,本人への日常対応への具体的な対処方法と,養育や考え方などの基本的問題への助言とを行う.家族の会などのサポートシステムへの参加が有効な援助になることがある.
対応の留意点
(1) 不登校の長期化には,不登校が始まる以前の要因よりも,不登校を呈したための二次的な問題が大きく関与していることが多い.環境との葛藤が強まったり,友人との疎遠や学業の遅れが不安になったり,不規則な生活リズムから抜け出せなくなったりすることが本人の自信を低下させ不安を増大させる.その結果,登校がさらに困難になるという悪循環が引起されてくる.対応では,こうした二次的悪循環の防止・改善が重要なポイントとなる.
(2) 教師,心理士,ソーシャルワーカーなどの協力を得た対応・援助が必要である.家庭内暴力や閉じこもりが続いたり,抑うつや行動異常が顕著な場合には,精神科などの専門分野にコンサルテーションを依頼する.